日本漢方養生学協会

今、なぜ漢方なのか 古来の哲学「漢方」を知る。

養生とは

より健康になる

 養生という言葉は、あまり馴染みのないものかもしれません。辞書によれば、健康に気を配ること、また病気の手当をすること、と書かれています。最近の使われ方をみますと、病気にならないために何かの方法をやっておくこと、というイメージが強いのではないでしょうか。このように養生という言葉は、第一に予防という考え方に結びついているようです。養生というのは、まさに文字どおり、「生命を養う」という意味です。それは、真の健康へ向かって生命力を養い高めていく、すなわちより一層のパワーアップをしていく、ということです。
 真の健康とはどういうことか、というのは「健康とは」で表現したとおり、単に病気でないというだけではなく、活き活きと快適に生きている状態です。ただ息をしているだけという状態ではなく、活き活きと活動している、心身ともに元気よく生きている状態です。そういう健康の定義に基づいて考えると、今の現実に対して、来年、再来年とますます心身ともに元気よくなりながら生きていくことが、健康への願いだということになります。
誰でも、だんだん元気がなくなっていく、ということを望んではいないでしょう。常に、もっと元気になりたい、より元気でいたいと願っているのではないでしょうか。
 養生とは、まず今の健康状態、生活のあり方を的確に判断することから始まって、その結果をふまえて、今より、そして来年は、より一層健康になるためにはどうしたらいいか、という方向性を示してくれる考え方です。
この考え方に基づいて根本的な養生を行えば、何年か先にはさらにもっと健康になれる。すなわちもっと元気よく生きている。そうして死を迎えるそのときまで健康に向かって進み続けるという発想、それが養生ということの意味です。

生きるということは成長すること

 このような考え方に対して、それでは人間はいつまでも心身ともに成長するのか、という疑問が湧くかもしれません。
実際には、体は年齢を重ねるにしたがって、その機能は衰えます。ですから年ごとに、若い時のように現場で体を張って活躍することはできなくなってくるかもしれません。しかし一方では、若い人たちにはどうしていいのか分からず、決定できないようなことでも、数多くの経験から計り知れない智慧をさずけてくれるものです。また、ものの見方、考え方がより大きな視点から見られるようになり、精神的な充実感はますます高まっていきます。
 このように、ある部分は衰えるけれども、ある部分は伸び続けるとすれば、全体としてのバランスは変化してきます。にもかかわらず、いつまでも肉体的に無理を続けていればバランスがとれなくなってきますから、当然病気もかかりやすくなります。
それは、環境の変化に対する適応の仕方、あるいは対応の仕方が自然の流れに沿っていないわけですから、いい方向へ向かうというよりは、年とともにますますバランスが悪くなり、健康状態も悪くなってくるでしょう。
そして結局は、悪くなるのを抑えるだけの、防衛対策に力をそそぐことになってしまいます。このような、これ以上悪くならないように、という発想をするのは、結果として、今より良い方向へ向かうのがとても難しくなるという問題を含んでいるのです。これは病気に対する見方にも共通して言えることです。
もちろん現実的に痛みや苦しみがあれば、誰でもまずそれを取り除きたいと思うでしょう。たとえばガンのような病気だったら、その部分を切りとった方がいいという場合もあります。しかしそれは治療として、必要に迫られて最後の手段として行うことです。
それに対して、養生というのは、未来永劫にわたって続けて行くことによって、常に前向きに自らの健康をとらえ、積極的に健康になろうという考え方に基づくものであり、そのための方法なのです。
 そして、実際にやったことの実績、その積み上げの結果がその人の健康に現れてくるのですから、まさに個人個人が自分の状態をふまえて、それにかなった方法で行っていくものなのです。一日や二日で結果の現れるような、目に見える効果はないかもしれませんが、ある期間を過ごしてみれば、確かに目の前の苦痛や病気に対しても、またそれによって湧き起こってくる不安さえも、乗りこえる力と自信を与えてくれるものだと言えます。

健康は守るものでなく目指すもの

 養生の発想はそのようなものですから、したがって今は健康であるという人に対しても、養生を心がけましょう、それによって来年はもっと健康になりましょう、ということが言えるのです。
 これを積み上げていると、年々健康になっているという自覚が生まれます。そして状況に合わせて新しいものを一つ増やす、また一つ増やすというように積み重ねているうちに、それが習慣化してきますから、年齢とともに以前よりも健康になってきているのが、生活上の様々な面で自覚できるはずです。そういう考え方に基づいて健康をとらえていかないと、すべて問題が出てきたところ、症状が出てきたところを抑えるだけという、対症療法的な発想に陥ってしまいます。
 一般的には、養生といえば、とにかく病気にならないためにこれをやっておけば予防ができるという.予防医学的な発想で受けとめる方が多いのではないでしょうか。それを越えて、予防ではない、死ぬまで元気で行くんだということになれば、すべてが変わってきます。例えば死ということに関してみても、一個の生命としてみたときには、衰えて死を迎えるということは人生の一大事のように思えるかもしれません。しかし.それは一つの生命体として成長を続けてきた結果、与えられた役目を終えて次の世代にバトンタッチしていくという節目に過ぎないのです。古代の中国には、個は滅んでも意識は残るという発想がありましたが、まさに一個の生命としては、死を迎えるときまで成長を続け、次の世代により次元の高いものを残していくということが、与えられた役目なのです。
ですから死を恐れるのではなく、生きている限り養生、生命を養うということが必要になってくるわけです。

実感で知る養生

 このような考え方は、一般的に言われる養生の範囲から一歩踏み出したものですから、なかなか分かりにくいかもしれません。また、毎日毎日、養生を積み重ねていけば来年はもっと健康になれますよといっても、本当にそうなのか、不安の方が先にたつのではないでしょうか。なぜなら、自分に経験のないことは、いくら耳から聞いても実感としては分からないものだからです。
たとえば、生まれたときから鼻の詰まっている人がいたとします。幼い頃から鼻炎や蓄膿症の子供などを見ていると、ご飯を食べながら口で息をしています。他人からみると苦しそうに見えるものです。ところが本人は、生まれながらにそういう状態で生きてきたのですから、意外に苦しくないのです。その状態に適応して、慣れてしまっているのです。鼻が通ったら楽になるだろうというのは、普段から鼻の通った人の見方です。ですから客観的な立場から、鼻を通した方が楽でいいよといくら言っても、その本人には分かりません。そういう経験がないからです。
 けれども、たとえば薬や養生などで、もっと元気になる、今よりもっと健康になろうという方向性のもとで努力していくうちに、鼻が通っていきます。
そうすると初めて、鼻が通るということはこういうことか、ということが分かるのです。これが一つ健康になった証拠だなと納得できるわけです。そして鼻が通ってみたら、なんだか勉強も良くできるようになった、運動もできるようになったということにもなります。
 成長するということは大自然の法則ですから、たとえば現状維持という態度は、生命の尺度からみれば衰退の方向だとさえ言えるのです。
 そういった意味で、今それぞれ一人ひとりを見渡したとき、健康ということに対する自覚があまりにも希薄です。それはまた、半健康の状態にいるということの自覚がないということでもあります。どんなに自分は健康だと思っていても、大自然の中で生きていく上では空気がいい悪いとか、水がいい悪いとか、数え上げればきりがないほど様々なリスクに囲まれています。ところが自ら養生をして健康とは何かということに気がつけば、来年はもっと健康になり、そうなるという確信のもとにさらに努力もできるようになります。
それが養生ということの基本です。そして、養生というのは、やればやるほど健康になれるというシステムなのです。

養生の効果的な方法とは

 その人にとって一番簡単で効率がいい方法というのは、具体的にはいろいろありますから、どれを取り入れるのかというのは一人ひとりがその人の状態に合わせて、生活の中で続けていけるものを組み合わせていくことが大切です。
 養生というのは、病気を防ぐという予防医学的なものではありません。来年もその次の年も、やればやるほどもっと健康になっていくという、そのために行うのです。
 ただし、その方法論にはいろいろなものがあります。そして一人ひとりにとって適している方法は違います。人間関係がリスクになっている人もいるし、肉体的にリスクを受けやすい人もいます。そこで、まず現在の自分の状態を把握して、どの部分のバランスをとっていくのか、ということが次の問題になります。
 人はそれぞれに弱い部分や、よい部分があります。そのよい部分はより伸ばしていく、そして弱い部分はよい部分で引っ張りあげていく、あるいは改善していく。そうして全体としてよりよい方向に導いていくわけです。
そのためには、まず具体的な面から今の状態をチェックして、それを全体としてみたときにどのようなバランスになっているのか、ということをまず確かめてみることから始める必要があります。
来年は現在のよい部分はもっと伸ばし、悪い部分は改善していけば、トータルではこういうふうに良くなると、そういう方向性のもとで考えていくことが第一歩です。そして入院というような方法ではなく、生活の中で実行できることを探し、それを一つずつ増やしていく、というのが具体的な養生の方法になります。
たとえばジョギングが健康のためにいいからといって、誰もが同じように走ればいいというものではありません。無理をすればかえって体を壊してしまいます。自分に合った距離を、自分のペースで気持ち良く走ればいいのです。人によっては、歩くだけでもかまわないのです。

~河端敏博著 養生の基礎知識より~

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